ブルーバックBlue buck

1800年絶滅
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南アフリカの美しきレイヨウ、ブルーバック

ブルーバック(Hippotragus leucophaeus)は記録の上で、アフリカ最初の大型哺乳類として初めて絶滅したどうぶつである。ローンアンテロープやセーブルアンテロープの近縁種だが、体の構造はその2種に比較するとやや小さい。

19世紀初頭に描かれたブルーバック

19世紀初頭に描かれたブルーバック(画像をクリックで拡大表示)

17 世紀と18 世紀に植民地だったケープ地方に住み着いたヨーロッパ人が、ケープ州南西部の沿岸にある平原でブルーバックを発見した。ブルーバックは広大な湿地帯の草原や、多年生の草むらのある土地、山腹の雑木林の開けた場所にのみその姿が見られた。ブルーバックは長さのある(50 - 100cm)の多年生の草、例えば良質のメガルカヤやスピアグラス、バッファローグラス、カゼクサといった特定の植物を餌とする草食獣だった、というのがその理由である。乾季の間は別として、他のレイヨウのように新鮮な草をとりわけ好むことはなかったが、ローンアンテロープやセーブルアンテロープのように毎日水を飲むことは欠かせなかった。

ブルーバックの剥製@ウィーン自然史博物館

ブルーバックの剥製@ウィーン自然史博物館(画像をクリックで拡大表示)

ブルーバックは、自身の存在をヨーロッパの博物学者らやハンターらに知られたときには、すでに絶滅への道を歩んでいた。ドイツ人ペーター・コルプは、1719 年にブルーバックの存在について最初に記した人物だ。彼はブルーバックを大型のヤギと記述し、後に彼の記憶に基づいて描かれた博物画には、長いひげや尻尾など典型的なヤギの特徴が描かれていた。ちなみにその尻尾について、房状であることは正しかったのだが位置は実際よりもかなり上の方に描かれていた。後にコルプの描画は、ダニエル(1804-08)によってブルーバックのイラストの参考資料とされ、さらにジャーディーン(1839)により複製もされたが、それには雌には角がないというような別の誤りまで混在するようになった。コルプの記述から約50 年後の1767 年に、P.S. パラスによってブルーバックはやっとレイヨウとして分類上正しく記述されることとなる。

レイヨウたちの頭部比較(ブルーバックは上段中央) 1719 年、ペーター・コルプによって描かれた
ブルーバックの博物画

レイヨウたちの頭部比較(ブルーバックは上段中央)
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1719 年、ペーター・コルプによって描かれたブルーバックの博物画
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ヨーロッパから来たハンターや、現地在住の農民たちは主にその毛皮のためにブルーバックを狩った。ドイツ人動物学者のマルティン・リクテンスタインによると、ケープ州最後のブルーバックは1800 年に狩られたとされる。しかし孤立して残った個体群が、北部で19 世紀まで存在していたとの見方もある。それは1853 年にフリーステイト州で、W.J. セントジョン副官により“ 青灰色のレイヨウ” が目撃・記録されたためである。これはおそらくブルーバックの残存個体群と考えるのが妥当である。しかし1850 年代には間違いなく、最後のブルーバックがフリーステイト西部で絶滅したと思われる。

ブルーバックの頭骨標本

ブルーバックの頭骨標本(画像をクリックで拡大表示)

ケープ植民地の開拓・銃器による狩猟によって、数少ないブルーバックの最後の群れはたちまち姿を消したはずである。それは世界の自然博物館たちが十分な数の標本を得る前のことであり、結果たった4 体の剥製標本(パリ、ライデン、ストックホルム、ウィーンの自然博物館に)が骨や角のなどのコレクションとともに残るだけとなった。1967年、パラスによるブルーバックの記述からちょうど200年後に、ドイツ人動物学者エルナ・モールが現存する4 体のブルーバックの剥製を研究・比較し、その標本の歴史について興味深い論文を発表した。彼女はアムステルダムとグラスゴーの博物館にある2 つの約39㎝の頭蓋骨と、ロンドンとウプサラ(スウェーデン)、ケープタウンの博物館にある3 対の角の研究と比較を行った最初の人物である。

ブルーバックの剥製@パリ自然史博物館

ブルーバックの剥製@パリ自然史博物館
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長い三日月刀の形をした角の長さは50 - 61㎝、先まで20 - 35 個の大きな節があり、ローンアンテロープやセーブルアンテロープのものより軽量で、やや内側に生えていた。また雌の角は雄のそれと比較して10 - 20% 小さかった。それから短いたてがみのように毛量が豊かな長くて強い首、前方に濃い縞模様がある白くて長い足、ウマと同じく膝まである長くて箒のようにふさふさした尻尾。鼻筋は長く、赤褐色の先のとがった長い耳をしていた。この珍しい南アフリカのレイヨウを初めて我がLOZT ZOOにて、つまり“ ヨーロッパ以外の地”でご覧いただくことができる。

LOST ZOOブルーバックの放飼場風景

LOST ZOOブルーバックの放飼場風景
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ブルーバックの放飼場はクアッガの隣に、そして当時南アフリカで最大の肉食動物だったケープライオンの反対側にある。当園へご来園の際は、この3 種の動物が同じ生息地を共有する自然界の生物相よろしく自然そのものの環境展示となっている南アフリカのサバンナエリアに是非立ち寄っていただきたい。

LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ

ブルーバック
  • ブルーバックはケープ州南西部の沿岸にある平原に生息する。この種のアンテロープは、広大な湿地帯の草原や、多年生の草むらのある場所、山腹の雑木林の開けた場所だけに見られた。それはブルーバックが長さが中~長程度の多年生の草といった特定の草を餌とする草食動物だったためである。
    17世紀と18世紀にヨーロッパ人がケープ植民地に住み着いたときには、ブルーバックは絶滅への道を歩んでいた。生息域は狭く、特定の草原地域に限られていた。
  • 肩高:102-116 cm
  • 体高:99-115 cm
  • 体長:95-113 cm
  • 足跡:88 x 48 cm
  • 全長:250-300 cm (雄)、230-280 cm(雌)
  • 体重:約160 kg(成獣雄)
  • 生息地:海抜2400mまでの南西部の沿岸地域に広がる、広大な湿地や多年生の草むらのある草原。
  • 絶滅:ブルーバックは18世紀にはすでに希少であったが、ヨーロッパからの入植者によって毛皮のために狩猟され、生息地は農地に転換された。1800年に最後のブルーバックがケープ州で殺された。
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