ドードーは、1865 年にルイス・キャロルが『不思議の国のアリス』で取り上げたことで有名になった。その後ドードーは、アリスの冒険を描いた映画の中や児童書に登場するユニークなキャラクターとして人気者となった。現在においてもドードーはさまざまな商品のマスコットとして使われているほか、すべてのモーリシャスルピー紙幣の透かしにも使われている。また、Durrell Wildlife Conservation Trust など多くの環境自然保護団体のロゴにも使われている。ご存知の通り、我が LOST ZOO もこのドードーをロゴに採用している。しかし、このドードーという鳥について我々は一体何を知っているだろう。ドードー(Raphus cucullatus)は絶滅した飛べない鳥で、モーリシャスの固有種である。最も近い近縁種は、近くのロドリゲス島の固有種で、同じく飛べない鳥のロドリゲスドードー(Pezophaps solitaria)でこれもまた1750 年代に絶滅している。
ドードーを描いた博物画や絵画・挿絵の数々 (画像をクリックで拡大表示)
さらに第3種のシロドードー(Raphus solitarius)が、モーリシャス島に近いレユニオン島の固有種として記録されている。しかし、飛べないドードー科の鳥が生息したモーリシャスとロドリゲス島が、800から1000万年前に姿を現したのに対して、火山島のレユニオン島が誕生したのは、ほんの300万年前とされる。そのため、2つの島からレユニオン島へ飛べない鳥が移住したとは考えにくい。また1974 年に初めて発見された半化石から、当初シロドードーと呼ばれた鳥が、大型であるがしかし飛べないトキのような鳥であったことがわかった。実際、1987年時点ではレユニオン島固有種のこの鳥はレユニオントキ(Threskiornis solitarius)と分類されていた。これに最も近い種が、マダガスカルクロトキ(Threskiornis bernieri)、アフリカクロトキ(Threskiornisaethiopicus)とムギワラトキ(Threskiornis spinicollis)である。ドードーとロドリゲスドードーの両種は、遺伝子学的にはハト目に属し、ドードー亜科という特異なグループを形成する。ミノバト(Caloenas nicobarica)がこれらに最も近い近縁種で、次にニューギニアのカンムリバト(Goura spec.)が近い種となる。ミノバト(Caloenas nicobarica)は、東南アジアの海岸地域周辺の小さな島で発見された。それらは群れを成して島から島へと飛び回る。夜は捕食者のいない沖の小島で眠り、昼間は餌が多く見つかる場所で過ごす。果実や植物の芽を餌とし、特に畑の穀物を好む。砂嚢で硬い食べ物を磨り潰すことができるのだ。
ほかのハトと違い列を作って、または一列縦隊で飛ぶ。濃い灰色と緑色の光沢のある羽を持つ大型のハトは飛ぶことに卓越していて、その真っ白な尾は群れからはぐれさせないための目印としての役目を果たしている。また、沖にある木々の生い茂る小さな島で、集団で繁殖する。樹上に枝でゆるい巣を作り、そこに楕円形のかすかに青みがかった白い卵を産む。ミノバトは唯一現存するミノバト属の種で、約5600から3400万年前にほかのハトから分岐した。もうひとつのミノバト属であるカナカバト (C. canacorum) についてはニューカレドニアとトンガで発見された半化石がその存在を物語っているが、これもまた紀元前500年頃に乱獲により絶滅した。ミノバトの近縁種、ひいてはドードーにとっても近縁種と言える鳥は、3 種からなるカンムリバト属(Goura)である。それらはニューギニアと近辺の島に生息する。3 種のカンムリバトは互いによく似ていて、生息地が重複することもある。カンムリバト(Goura cristata)はインドネシア、パプア州の低地熱帯林に生息し、ムネアカカンムリバト(Goura scheepmakeri)はニューギニア南部の低地森林に、オウギバト(Goura victoria)はニューギニア北部と周辺の島々にある低地の沼沢林に生息する。
いずれもシチメンチョウ程の大きさ(全長70から75㎝、体重2.1から3.5㎏)で、現存するハトでは最大の種である。10 羽までのグループで森の地面を果実や種子、カタツムリなどを探して回る。眠る時は樹上で眠り、巣も樹上に作る。オスが昼間、メスが夜間にと両親でひとつの卵を28から30日かけて孵化させる。それから30から36日後に雛の羽毛が生えそろうと、夜は家族揃って巣で休み、オスが2か月間雛に餌を与えながら子育てをする。動物園ではこの優雅で色鮮やかなハトは、一般的に大きな鳥の放飼場に集団で飼育されている。例えば、シンガポールのジュロンドバードパークでは、大きな放飼場に3 種のカンムリバトが100 羽も飼育されていて、そこで自然に繁殖している。ヨーロッパの動物園では、19 世紀にカンムリバトの繁殖に成功しており、1850 年にはロンドン、パリ、ロッテルダムでカンムリバトの、1881 年にはパリの動物園でオウギバトの、1903年にはロンドンの動物園でムネアカカンムリバトの繁殖に成功した。今ではカンムリバトたちは、すべての鳥類飼育におけるひとつの目玉となったが、実は動物園で見られる機会はだんだんと減ってきている。それは野生下ではこの鳥たちが絶滅の危機に瀕しているためだ。一番の脅威は伐採による継続的な生息地の減少である。しかし、絶滅したドードーの親戚を、生きた姿で今なお動物園で展示できることは嬉しいことである。人間による生息地の破壊のために、この美しい鳥を絶滅させることがないよう、我々は努力をしなければならない。
モーリシャスの硬貨や紙幣、切手にデザインされたドードー (画像をクリックで拡大表示)
ドードーがモーリシャスに生息していた当時、自然保護について考える人は皆無だった。そのため、ドードーの生きた姿を知るには、17世紀に描かれた描画や絵画、記述だけが頼りだ。しかし生きたドードーをもとに描かれたとされる絵はほとんどなく、厳密に、その正確な生きた様子については現在も明らかになっていない。ドードーの描写には、茶色っぽい灰色の羽毛、黒い爪と黄色の脚、束になった尾羽に毛のない灰色の頭、黒、黄、緑色からなるくちばしが描かれている。残存する骨格からドードーの身長は1mほどで体重は10から18㎏だったと推測される。雌雄差があり、雄の方が大型でくちばしもより長かった。くちばしは23㎝に達し先はかぎ状に曲がっていた。1950年代に再発見されたインドのムガル絵画には、インド固有の鳥とともにドードーが描かれている。そのドードーは細めで茶色っぽい色をしており、これは生きたドードーを描いた最も正確な絵のひとつとされている。なぜなら、そこ描かれたほかの鳥はすべて明確に識別することができ、色彩も適切に描かれているためだ。そこに描かれたドードーはおそらく1605年から1627年にムガル帝国を統治した皇帝ジャハーンギールの動物園で飼われていたと考えられる。
世界中で保管されるドードーの剥製 (画像をクリックで拡大表示)
最古のドードーの絵と詳述は1598年にオランダの探検家が記したもので、初めて出版されたドードーの絵(1601年)も彼の残した記録によるものであった。もっとも、船乗りらがこの大きな鳥に関心を持った理由は、主に食料にするためであったことは言うまでもない。初期の記録(1602年)には、24、5羽のドードーが食用に狩猟されたが、あまりに大きかったため1度の食事に2羽を食べるのがやっとであったと記されている。また最古のドードーの標本の絵はヨーロッパにある。プラハの皇帝ルドルフ2世の王宮動物園の動物を描写した1610年の絵のコレクションのひとつである。そのドードーは、絵の中のほかの動物と一緒に皇帝の動物園で飼われていたとされる。ヨーロッパにドードーの全身の剥製があったということは、ドードーがヨーロッパに生きたまま連れてこられ、そこで死んだということを裏付けている。日本の長崎にも1羽のドードーが1647年に送られたと伝えられている。その1 羽が生きて到着したかはこれまで不明であった。しかし2014年に発行された現代文書が、ドードーは確かに生きて到着したことを立証した。そしてこれが生きて捕獲された最後の記録となるのだから、日本の読者たちにとっては興味深いことだろう。
天敵となる捕食者がいない場所で進化したほかの多くのどうぶつたちと同じく、ドードーは人間に対する警戒心が全くなかった。警戒心のない飛べない鳥は、船乗りたちの絶好の獲物になってしまった。ただ、実際船乗りらによる乱獲の記録もちらほらとあるものの、現在では彼らを絶滅に追いやった直接的な原因は乱獲というよりは、人間による生息地の森林破壊と考えられている。特にブタやサルのようなどうぶつを家畜あるいはペットとして現地に持ち込んだ影響が大きいと考えられる。2005年10月、100年の空白の時を経て、かつてドードーが生息したとされるモーリシャスのマール・オー・ソンジュと呼ばれる湿地帯で国際的な研究者らによる発掘が行われた。たくさんの化石が発見され、少なくとも17 羽のドードーの骨と1 個体からの数本の骨が見つかった。2007 年6 月、モーリシャスで洞窟を探検していた冒険家が、これまでで最も完璧で状態の良いドードーの骨格を発見した。
世界中の26の博物館でドードーにまつわる重要な資料が保管されており、そのほとんどがマール・オー・ソンジュの湿地帯で発見されたものである。いくつかの自然史博物館には、バラバラの半化石の化石から組み立てられた、ほぼ完全な標本がある。2011 年にはロンドンにあるグランド博物館でドードーの骨が入ったエドワード朝時代の木箱が再発見された。ドードーは我がLOSTZOO のロゴではあるが、この特別で珍しい鳥をコレクションに加えるのに何か月もかかった。我々はこの非常にユニークで有名な鳥を、南アフリカのクアッガとブルーバックの近くの放飼場で皆さまにご覧いただけることをとても嬉しく思う。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ