ニホンカワウソ(Lutra lutra whiteleyi)は、かつての日本ではよく見られるどうぶつであり1880年に遡れば東京ですらその姿を見ることができた。しかし、 明治以降は乱獲が始まり1930年代には個体数が急減した。本州、九州と北海道で最後にその姿が見られたのは1955年から59年にかけて。その後は1964年に瀬戸内海で、1972年と73年に宇和海で数回目撃された例があるのみである。
ニホンカワウソの剥製@とべ動物園 (画像をクリックで拡大表示)
ニホンカワウソの骨格標本@国立科学博物館 (画像をクリックで拡大表示)
最後の目撃例は1979年に四国南部の須崎市新荘川で、写真が残されている。また1979年に四国でニホンカワウソの死体が見つかり、これが本種最後の標本となった。1979年以降、多くの調査隊が彼らの存在の形跡を探すため、 かつての生息地を訪れている。しかし、それらの調査はいずれも失敗に終わっている。そして2012年8月8日、日本の環境省は正式にニホンカワウソを絶滅種に指定した。我がLOST ZOOでこの珍しいどうぶつを、最後に目撃されて以来約40年の間で初めて飼育できることをとても誇りに思う。
ニホンカワウソは体長65から80cmで、尻尾が45から50cm。夜行性のため暗くなると 巣から出て餌を探し始める。主に魚、カニやエビを捕食するが、カタツムリ、 スイカやサツマイモなども好んで食べたことが知られている。ほとんどのニホンカワウソは自分の体重の15〜25%程のエサを摂食するが、限られた生息場所の中で他個体との競争もあり、自然界において十分な餌の分量を確保するのは6時間もかかると言われている。そのため、彼らの行動範囲は直径約16kmにもおよぶ。テリトリーを主張するのに2〜5kmごとにマーキングをしつつ、 岩の下や茂みの中に3〜4個の巣を作り数日ごと代わる代わるそれぞれの巣を利用する。
ニホンカワウソは2〜3歳で性成熟し繁殖が可能となる。幼いオスが、成長するまで母親と暮らす最初の2〜3年を除き、繁殖期以外にメスとオスが 一緒に暮らすことはない。ニホンカワウソは一度に1〜6頭の子どもを産む。 生まれた赤ちゃんの目は1ヶ月間全く見えないため、その間は自分で何もすることができない。赤ちゃんの世話をするのはメスだけで、長くて1日8時間授乳し子どもを守りながら生きる術を教える。生後4ヶ月で子どもたちは狩りを始め、自分で捕食した餌を食べる。
ニホンカワウソの博物画(画像をクリックで拡大表示)
ニホンカワウソは昔も今もとても人気がある。それはニホンカワウソにまつわる話が多くあるためだ。ニホンカワウソは、架空の生き物「カッパ」のモデルとされている。サルやカエル、カメなどの仲間、色々などうぶつの存在がモチーフとなって「カッパ」は今なお漫画やアニメのキャラクターとして人気を博している。
当園では、濃いブラウンカラーで分厚いふさふさの毛皮と、水かきのある短い足を持つ生きたニホンカワウソを飼育・ 展示している。研究者らはニホンカワウソがユーラシアカワウソの亜種であるか、それとも別種であるか現在も熱く議論を続けている。ニホンカワウソはほとんどのヨーロッパ種の亜種よりも大型である一方、韓国や中国のカワウソはさらに大型で遺伝的差異もある。そのため、多くの研究者がニホンカワウソは独立種(Lutra Nippon)であると考えているようである。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ