ウサギは3つの科に分類される。中央および東アジアと北米西部に分布するナキウサギ科と、世界中のほとんどの地域に分布するウサギ科、そしてごく少数で1種からなるプロラグス科、サルディニアナキウサギだ。90種あったウサギは当初げっ歯類と目されていたが、げっ歯類とは関係性がないうえ大きく異なる点がある。ウサギは上あごに門歯が4本あり表と裏の両方がエナメル質だが、げっ歯類は門歯が2本で表だけがエナメル質なのだ。
サルディニア島の風景 (画像をクリックで拡大表示)
病原菌を媒介するとして嫌われがちだった多くのげっ歯類とは違い、ウサギたちは人々に愛されてきた。ヨーロッパのウサギは古代ローマで最初に家畜化された。中世以降は広い地域で食用や、後にペットとしても飼育され、これまで多種多様な品種が作られた。品種改良によって小さいものから巨大なものまで、さまざまなサイズのウサギが生みだされ、今では世界中でペットや食用として飼育されている。ウサギはほかの家畜動物やペットのように さまざまな色のバリエーションがあり、このバリエーションの多さこそが正田陽一先生のような生物学者にもこよなく愛された理由であろう。
ウサギは十二支のどうぶつのひとつでもあり、また擬人化されたウサギは映画や文学にも多く登場する。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場する“白ウサギ”や“三月ウサギ”。ベアトリクス・ポター著の“ピーターラビット”。そして言わずと知れたディッ ク・ブルーナが1955年に生みだした白くて小さなうさぎの女の子、 ミッフィーもそのひとつと言える。
『鳥獣戯画』から兎と蛙の賭弓競技 (画像をクリックで拡大表示)
先月、我々は北米のムカシノウサギ(Palaeolagus haydeni)を我がLost Zooに導入しようと試み た。それは始新世に生息したノウサギで約3400-2400万年前に北米のサバンナ森林地帯、温暖で十分な雨と日射があり餌となる草が生い茂る場所に生息した。ところが、そのような餌となる草が多く生える恵まれた環境に生息したため、このノウサギは機敏なタイプではな かった。後ろ足が短く、素速く飛び回ることはできず原生のノウサギほどのスピード感はなかった。
『鳥獣戯画』から兎と蛙の賭弓競技 (画像をクリックで拡大表示)
残念ながら今回ムカシノウサギを新しい種として我がLost Zooへ導入することはできなかったが、なんとその代わりに非常にめずらしいサルディニアナキウサギ(Prolagus sardus )のペアを得ることに成功した。それは体長約25cm、体重500g程のずんぐりとした動物で、ナキウサギ科とウサギ科の間にあたる科を代表する唯一の種である。現存するナキウサギやウサギの親戚にあたり、地中海のサルディニア島とコルシカ島の固有種。海抜0mから800mまでの穴が掘りやすい場所に生息していた。
書物や化石からサルディニアナキウサギは、かつて数多く島に存在したことが分かっている。しかし約6千年前に島にやってきた人間によって多くが食用に狩られた。その後、複数の要素が重なりサルディニアナキウサギの個体数は減少していった。絶滅の原因はローマ時代の農地開拓と、捕食動物が持ち込まれたことによる生存競争のためと考えられる。またローマ人がサルディニア島とコルシカ島に持ち込んだウサギから病原体が感染したことももうひとつの原因とされている。しかし本種はサルディニア島付近の小さな島でその後も生存した可能性がある。1780年まで無人島だったタヴォラーラに、おそらく1770年代まで生息していたとされる。
そして本種は人のあまり立ち入らなかった山や谷で生き延びたという噂があったのだが、幸運にも我がLOST ZOOに無事導入することができた。サルディニアナキウサギはサバンナスタイルの放飼場で展示されており、そこにある岩と小さな洞穴が地中海のサルディニア島の景色を再現している。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ