現存するラクダ科のどうぶつの原種は元来、北米に生息したが、約300-500 万年前にパナマ地峡を通って南米に拡散しグアナコやビクーニャが生まれた。またベーリング陸橋を通ってアジアやアフリカにも拡散し、ゴビ砂漠には今も野生のフタコブラクダが生息している。
北米で最後まで生存していたラクダCamelops属は最初の人類が大陸に到着した、約 11000 年前に絶滅した。その要因には気候変動などもあるが、中南米先住民族の祖先にあたるクローヴィス人たちによる狩猟圧によるものと考えるのが妥当だろう。それから数千年後、それぞれ完全に独立した形で、南米のラマやアルパカ、アジアのフタコブラクダやアフリカのヒトコブラクダなど、野生のラクダ科の動物たちが家畜化されるようになった。旧世界のこれら両種が “ ラクダ ” と呼ばれ、南米の “ ラマ ” とはまったくの別種となる。
現存するほとんどのラクダは家畜化されているが、ヒトコブラクダは紀元前 3000 年頃のソマリアとアラビア南部で初めて家畜化されたのに対し、フタコブラクダが家畜化されたのは紀元前 2500 年頃の中央アジアとされる。現存する野生のラクダは、ゴビ砂漠の僅かな数のフタコブラクダだけであり、それら野生のフタコブラクダは 1980 年から 90 年代に北京動物園で飼育されていた。野生のフタコブラクダを飼育したのは、世界でも北京動物園だけである。
科学者の間ではヒトコブラクダとフタコブラクダの原種が同じなのか、それとも違う種なのかこれまで議論されてきた。アフリカで野生のラクダが確認されていないことと、ヒトコブラクダとフタコブラクダの大きな違いがコブの数だけであること、この二つが争点である。フタコブラクダにはコブが必ず二つあるが、ヒトコブラクダにはもちろん一つしかない。しかし胎児の段階では実はヒトコブラクダにもコブが二つあることから、多くの科学者は二つ目のコブを減らすことが家畜化における目的であり、ヒトコブラクダは野生のフタコブラクダが改良されたものと考えたのである。
シリアラクダと現生ラクダ、からだの大きさ比較(画像をクリックで拡大表示)
しかし今から約 10 年前にダマスカスの約 200km 北にあるシリア西部の砂漠で、初めてラクダの化石が発見された。このシリアラクダ。(Camelus moreli)は約 10 万年前に生息していたことがわかった)シリアラクダは、中東地域とアフリカで初めて発見された野性のヒトコブラクダということに加え、実に巨大などうぶつであることが多くの関係者を驚かせた。この巨大なラクダは現代のゾウと同じくらい背が高く、現代のラクダと比較しても約 2 倍の体高だったことがわかっている。肩高が 3m、頭までの高さは 4m にもなった。この新種のラクダは、中期旧石器時代の人骨と古代人が使用した石器とともに発見された。その骨はおそらく巨大ラクダを追った狩人の。ものであろう。泉に水を飲みにきた獲物を追っていたに違いない
家畜化されたラクダが中東で見られるようになったのは、ほんの5000 年から 7000 年前であるが、この地域で最初の野生種として発見されたシリアラクダは、最初に家畜化された種よりもはるか以前にここで存在していたことは明白なのである。科学者らはシリアラクダが、現代の家畜化されたヒトコブラクダの原種である可能性があると考え研究を進めている。ともあれ、シリアラクダはこの地域で野生のラクダが存在したという歴とした証拠であり、アジアのフタコブラクダとは関係なく家畜化されたと言える。この希少な巨大シリアラクダが我が LOST ZOO の展示に加わってくれることを誇りに思う。この種を飼育することで、我が LOST ZOO は野生のラクダを飼育した世界で 2 番目の動物園となるのだから。
LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ