タスマニアタイガーTasmanian tiger

1930年絶滅
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動物学者たちを魅了し続けるタスマニアタイガー

どうぶつたちの分布は、地球の歴史を紐解く上で大きな手がかりとなる。たとえばアロワナのような古代魚が現代において南米、アフリカ、東南アジア、オーストラリアにバラバラに分布していること、またハイギョも南米、アフリカ、オーストラリアに分布していること。これらはそれぞれの大陸が、もとは一つの大きなゴンドワナ大陸から分化したという論拠のひとつとなっている。オーストラリアは近代的な哺乳類が出現する前にゴンドワナ超大陸から分離したと考えられており、それゆえオーストラリアには近代的な哺乳類が存在せず、元来そこで暮らしていた有袋類たちオーストラリア全域を他の種と競争することなく制圧した。結果として、有袋類の多様性が花開くわけである。

タスマニアタイガー(Thylacinus cyanocephalus)は1805年にヨーロッパでその存在を知られるようになった。このどうぶつはオーストラリア大陸で最大の肉食有袋類である、Thylancinida属は本種のみで構成されている。最後の飼育下の個体は1936年にオーストラリアのホバルト動物園で死亡した。この個体こそが世界で最後の1頭とされており、タスマニアタイガーは絶滅したと考えられている。タスマニアタイガーは特段見た目に麗しいどうぶつではないが、1850年から1936年の間には多くの動物園が飼育・展示していた。アデレードで8頭(1886₋1903)、アントワープで1頭(1912₋1914)、ベルリンで4頭(1864₋1908)、ホバルトで16頭(1910₋1936)、ロンドンで20頭(1850₋1931)、ワシントンで5頭(1902₋1909)が、それぞれ飼育展示されていた記録が残されている。
タスマニアタイガーは体長85₋130㎝、尾長が28-65㎝。脚は短く、体高は60㎝程しかない。体重は15₋30㎏。体毛は短く硬い、色は灰色か黄褐色。特徴は臀部から尾の根元まである13₋19本の黄褐色の縞模様。有袋類たる最大の特徴の袋は尾側に口が開いており、袋の内部に4つの乳首がある。通常1回の出産で2₋4頭の子を生み、こどもは3か月ほどで袋を出る。その後、親のそばで8₋9ヶ月ほど生活を共にするのである。

ベルリン動物園で飼育されていたタスマニアタイガーの写真

ベルリン動物園で飼育されていた
タスマニアタイガーの写真
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ヨーロッパからの移民たちがオーストラリアに到着した頃にはタスマニアタイガーはタスマニアのみに残っており、オーストラリア本土やニューギニアからは既にその姿を消してしまっていた。しかしその昔、人類が最初にオーストラリアにやってきた頃は本土にも生息していたのである。これは、先住民が書いた当時の洞窟壁画によってその事実が裏付けられている。5000年前にディンゴが本土に導入された頃に、タスマニアタイガーは本土から姿を消した。タスマニアタイガーは餌を巡る生存競争において、ディンゴに勝てなかったのだと推測される。かろうじてタスマニアタイガーが生き残ったタスマニアには、現在でもディンゴが導入されていないことからもタスマニアタイガーの絶滅の直接的な引鉄になったのがディンゴであると考えて良さそうである。むろん、ディンゴ以外にも、大量に狩猟されたこと、気候の変動、海外からの伝染病、遺伝的多様性の低迷などもタスマニアタイガーの絶滅に関係する重要な要素であることは言うまでもない。
林間部や高原地帯がこの大型肉食有袋類の生息地だった。しかしその当時既に絶滅寸前と目されていたそんなタイミングで、人間たちはヒツジの放牧のためタスマニアタイガーの生息地を占領し、彼らは森の奥深くへと追いやられたのである。

19 世紀に描かれたタスマニアタイガー ションブルクジカの頭骨標本

19 世紀に描かれたタスマニアタイガー
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オーストラリアの切手にデザインされた
タスマニアタイガー
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先述の通り、タスマニアタイガーは絶滅したとされているが、実は毎年このどうぶつについての目撃情報がいまだに報告されている。そして、まだ絶滅していないと信ずるに値する証拠もいくつか見られるようである。2005年「タスマニアタイガーの生存を証明できた者には高額の賞金を与える」とオーストラリアの雑誌が懸賞を出した。1936年以降に生きたタスマニアタイガーの写真などが撮られた事実はないようだが、ある信頼できる人物による目撃情報自体は非常に信憑性が高いとされている。しかしながら殆どの個体は捕獲され、あるいは殺戮されてしまっているはずであるから、もし本当に生き残っているとしたらタスマニアの中でも人間がほとんど足を踏み入れない地域でごくわずか生き残ったという可能性を頼みにするより他ないだろう。
ここ数年で、1960年代に発見されたタスマニアタイガーのものとされる糞に含まれたDNAについての研究が行われはじめている。2013年にイギリスの動物学者がタスマニアの奥地でタスマニアタイガーを探そうという探索活動をおこなった結果、ここでもタスマニアタイガーのものと目される糞が見つかり、こちらも現在DNAレベルでの解析がなされている。

ベルリン動物園で飼育されたションブルクジカ

タスマニアタイガーの頭骨標本
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現代において、この大型肉食有袋類を見るには自然史博物館を訪れることが一番確実である。タスマニアタイガーの剥製を展示している施設はオーストラリア自然史博物館については言うに及ばず、ベルリン、ブレーメン、ブリュッセル、フランクフルト、ロンドン、ミュンヘン、パリ、東京、ウィーン、チューリッヒ、そして北米にあるいくつかの自然史博物館である。 生きたタスマニアタイガーがいづれまた発見されることがないとは言い切れないが、少なくとも現時点では絶滅種である本種を我がLOST ZOOで飼育展示できることを誇りに思う。タスマニアタイガーは我が動物園で新しくオープンさせるオーストラリアのエリアに展示されることになるだろう。放飼場はサバンナのように草原を模したデザインであり、タスマニアタイガーが自由に駆けまわりながらも、ときに草の陰に隠れたりできるようにもなっている。とくとご覧いただきたい。

タスマニアタイガーの放飼場風景

LOST ZOOタスマニアタイガーの放飼場風景 (画像をクリックで拡大表示)

LOST ZOOキュレーター ユルゲン・ランゲ

タスマニアタイガー
  • タスマニアタイガーは肉食の有袋類としては最も大きく、平行進化の好例として挙げられる。生態系における同じようなニッチに位置するのがオオカミであると言えよう。
  • 体高:60㎝、ただし足が短い
  • 体長:85₋130㎝、うち尾長28₋65㎝
  • 体重:15₋30㎏
  • 生態系:開けた林森地帯や草原
  • 絶滅:1930年 食料を巡る競争においてディンゴに敗れたこと、狩猟過多、気候環境の変化などによる
タスマニアタイガー